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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)392号 判決 1963年10月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人糸賀悌治、同福田末一の上告理由第一点について。

株券の裏書による記名株式の譲渡には、譲渡人の署名または記名捺印を要することは、商法二〇五条二項、手形法一三条の明定するところである。したがつて、このような方式を欠いた裏書譲渡は原則として無効と解すべきである。しかしながら、記名は、署名と違つて、何人がしても差支えないものであるから、裏書欄に前株主の捺印のみある株券の交付をうけた株式譲受人は、裏書人の記名の補充権を与えられたものとして、かかる譲渡を有効と解しうるであろう。したがつて、譲受人が記名を補充すれば、そのときから株式の所持人としての形式的資格を取得し、会社に対して株主名簿の名義書換を請求しうる。しかして、捺印のみの裏書で株券の交付をうけた株式譲受人が、譲渡人の記名を補充せずに名義書換を請求した場合においても、請求者は、譲渡人の記名の補充を会社に依頼したと解する余地がある。したがつて、会社が依頼に応じ自己の責任において記名を補充し株主名簿の書換をすることは妨げないけれども、それは会社が任意にそうするだけのことであつて、そうしなければならない義務があるとは考えられない。譲渡人の記名を補充すべき旨の依頼に会社が応じなければならないと解すべき根拠を、法律上見出しえないからである。だから、捺印のみの裏書による譲受人から株主名簿書換請求をうけた会社は、請求者に株式所持人たる形式的資格が欠けていることを理由に、適法の所持人たることを否認し、書換請求を拒みうるものと解すべきである。この点に関する原判決の解釈は正当であり、これに商法二〇五条二項の解釈を誤つた違法があるとの論旨は採用しえない。なお、会社が株券を預つた以上会社に記名補充の義務が発生する旨および名義書換通告は譲渡証書とみなすべき旨の論旨は、いづれも原審で主張されず、したがつてその判断を経てない事項であるから、上告適法の理由とならない。

同第二点について。

原判決の所論前段の説示は仮定的論述であつて、その間にそごなく、後段は蛇足の説示であるから、これに瑕疵あるとしても判決に影響を及ぼさないから、論旨はいずれも採用できない。

よつて、民訴法三九六条、三八四条,九五条、八九条、九三条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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